新型コロナウイルスを発端として巻き起こったサプライチェーンの大混乱。現在は多少落ち着いていますが、ウクライナ問題などの影響もあり沈静化にはまだ至らないというのが大方の予想ではないでしょうか。
このように変革するサプライチェーン問題に対応していくには、調達業務の強化が欠かせません。私たちはその第一歩として、既存業務を効率的に行えるようにし、本質的な調達業務に取り組む時間を確保することが重要だと考えています。
既存調達業務効率化の手段として注目されているのが「SaaSの活用」です。
本テーマについて、株式会社インフォマート 戦略提携部 篠塚氏をお招きし、株式会社東京ファクトリー 事業開発 長谷川との共催セミナーを開催いたしました。本記事では、調達業務のデジタル化を推進していく中で中小企業が直面する課題とその解決方法について解説します。また、それら課題を解決する手段となるSaaSについても紹介していきます。
登壇者紹介
■株式会社インフォマート 戦略提携部 篠塚 一幸
2014年インフォマート入社。外食業界事業にてフィールドセールス、カスタマーサクセス等幅広く経験。2020年より中小製造業のデジタル化を推進すべく「BtoBプラットフォーム受発注for製造業」の普及活動に従事。
■株式会社東京ファクトリー 事業開発 長谷川 幸祐
SIer企業のセールスとして、大手製造メーカ向け基幹システム(EDIなどを含む)を担当。その後物流系SaaSスタートアップでは、工場・倉庫におけるSaaSを活用した業務改善のご提案から導入後の活用支援までの全役割に従事。2021年からは事業開発担当として東京ファクトリーへ参画。
中堅企業が抱えるデジタル化の課題と解決へのアプローチ方法 〜東京ファクトリー〜
多くの中堅企業から伺う調達業務における主な問題は、以下の3つです。
①多数の取引先との連携や社内手続き業務が膨大である
伝票の作成や、紙→システムへの転記、納期確認といった事務作業が取引先ごとに発生するため、膨大な工数が必要となります。
②社内に多数の情報連携先があり、調整・対応コストが大きい
事業部ごとの異なる要望に応えて業務を行う必要があります。業務仕掛かり中での仕様変更にも対応しなければならず、業務量が膨れ上がっていきます。
③日々の業務に忙殺され、本質的な業務に取りかかれない
調達部門は本来、コスト査定・低減施策検討、発注戦略検討などの業務を行うことがメインミッションです。しかし、日々の作業に忙殺され、本質的な業務に取り組めない現状があります。
上記問題を解決するには、業務デジタル化の推進が有効であると私たちは考えています。しかし、実際にデジタル化に取り組んでいくと、以下のような課題に直面します。
①社内事業部ごとにシステムへ求める要件が異なる
調達部門は社内各事業部と関わるため、それぞれからバラバラに出るシステム要件を考慮する必要があります。その他にもイレギュラーや特殊事項にも対応する必要があり、システム要件をまとめるのに苦労します。
②多くの社外取引先の協力が必要
調達部門は社外取引先とのやりとりが必須であるため、それら企業にもシステムを利用してもらう必要があります。取引先の数だけ協力依頼する必要があり、労力がかかります。
③基幹システムとの連携が必須
調達部門は在庫や会計といった社内重要情報を扱います。このような情報は既存基幹システムにデータが蓄積されていることが多く、新しいシステムを導入する場合は、既存基幹システムとの連携が必須となり、システム要件が複雑になります。
SaaSとは、「これまでパッケージ製品として提供されていたソフトウェアを、インターネット経由で提供・利用する形態のサービス」のことを指します。
「できる限りコストを抑えて業務効率を改善したい」という会社に適したサービスであると評されることの多いSaaSですが、私たちは前述した課題に直面した中堅企業にこそ適していると考えています。なぜならこのような課題は、芽の出そうなサービスを試して効果を確認しながら進めることで解決することが多いからです。
SaaSには、「導入障壁の低さ(低コスト導入・段階的な業務適用が可能)」や「業界標準対応(プラットフォームとして機能アップデートされる)」というメリットがあり、自社内の限定した業務から最小コストで運用を開始することが可能です。最小単位から取り組みを始め、さまざまな施策を試して効果を確認しながら自社と関連企業に適したシステムを徐々に作り上げていくことができます。
近年はこのような取り組み方が主流となりつつあります。実際にさまざまな企業の調達部門がSaaSのスモールスタートを検討・実施しており、私たちの会社が展開するサービス(後述するProceed Cloud)もその一翼を担っています。
DX化への第一歩!クラウドプラットフォームで変革する製造業の取引 〜インフォマート〜
電子帳簿保存法の改正が2022年1月より施行され、2023年からはインボイス制度が施行されます。このような制度の移り変わりから、デジタル化を推進したい政府の意図が汲み取れます。
一方で市場環境を見渡すと、世界的な原材料価格の高騰や慢性的な人手不足などの問題があり、外部環境の変化に対応できるような体制の構築が急務といえます。
このように目まぐるしく変革する世の中において、コロナウイルス流行前後で中小企業の業務デジタル化の優先度は増大(40%→66%)し、各企業の取り組みは加速してきています。
調達業務においても例外ではなく、ソーシング・パーチェシングの内、パーチェシング領域からデジタル化が推し進められています。
#ソーシング
商品仕様や取引条件などの購買条件を規定し、取引先の選択や交渉によって最も適切な条件を獲得することを指します。見積詳細や交渉履歴などの活用意義の高いデータが多く存在するが、多くの企業が紙・エクセル業務から脱却できておらず、業務デジタル化から取り残されている領域です。
#パーチェシング
発注から支払いまでのソーシングによって得られた規準に沿って実行される日常の購買実務のことを指します。定型業務が多く、自動化の恩恵が大きいため、デジタル化できていない企業がはじめに取り組むべき領域です。
調達購買業務のデジタル化に最も適しているのはEDI(Electronic Data Interchange :電子データ交換)という仕組みだと言われていますが、製造業では23%の導入率に留まっています。
その原因は「イニシャル/ランニングコストが高い」ことに起因しています。しかしその問題は、最小コストでスタートできるSaaSであれば解決でき、近年はさまざまなサービスが登場しています。
導入障壁であったコスト問題が解決すると、次にこれまで紙媒体中心で行われていた業務の課題が浮き彫りとなり、導入するシステムを選定できない壁にぶつかります。
■従来の発注・納期管理における課題
- 発注方法が統一できない(FAX/メール/郵送・・・)
- 取引先が発注内容を見たかわからない
- 納期/単価の入力に時間がかかる
- 社内で納期の共有ができていない
■従来の納入・受入管理における課題
- 取引先の出荷状況が見えない
- 納入/受入確定の都度、入力が発生する
- 検収書の発行が手間になっている
- 取引関係書類の保管が膨大な量になっている
これらの課題は、BtoBプラットフォームを用いることで解決します。BtoBプラットフォームとは、自社と取引先を同じ共通のクラウドシステムで接続することで、全員が同じフォーマットで業務遂行できるシステムのことを指します。
これまで紙上で行われていた取引は、企業ごとにバラバラのフォーマットであり、業務が煩雑化していました。BtoBプラットフォームを用いて電子化できれば、ペーパーレス化を実現するだけでなく、各企業が同じフォーマットを用いて業務が進むため、日々の煩雑だった取引が大幅に効率化されます。
そのプラットフォームとして活用されているのが「BtoBプラットフォーム受発注for製造業」であり、多くの企業で効率化を実現しています。
SaaSを活用した、委託先工場のリモート品質/工程進捗管理の実現 〜東京ファクトリー〜
重工業では特に品質トラブルや納期遅延が発生すると非常に大きな損失となるため、品質・進捗管理は重要な経営問題といわれています。
私たちはこの問題に対して、工場現場の写真やビデオが有力な情報源となりえると考えています。
製造現場では製造物の記録や業務引き継ぎのために、日々現場写真が撮影・蓄積されています。しかし一般的に、これらの情報はあらゆるところに分散されていることが多く(メール、日報、現場の掲示板 など)、効果的な活用がされていません。
一方委託元においても、それらデータの活用が万全だとはいえません。委託先から共有された大量の写真や報告書を個人のPC内に保存し、問題が発生するたびに膨大なデータを検索するところから始める・・・という方もいらっしゃるのではないでしょうか。実際にそのような声は多く、現場から得られる大量の情報を品質問題の早期発見や原因特定、改善活動につなげられていないのが現状です。
このような状況を打破するのが私たちの提供する「Proceed Cloud」です。

Proceed Cloudは、現場で撮影されたあらゆる写真を自動的にカテゴライズして整理することが可能です。撮影者がスマートフォンアプリを用いて現場写真を撮影すると、工程名と日付が付加されてクラウドにアップロードされ、あらかじめ整理されたカテゴリに分類されます。
委託元は、この情報を閲覧することで「いつどの作業を行ったのか」がわかるようになります。また本システムでは、作業進捗予定表もデータとして保持しているため、両者を比較することで業務予実管理も簡単に行えます。
そのほかにも、撮影者が写真をアップロードする際に「不具合」「メンテナンス」といったタグや、自由記述のテキストを付加することが可能で、このような機能が後の情報検索性を大きく向上させます。メンションやレビュー依頼なども送付できるため、Proceed Cloudだけで品質問題の早期発見や、トラブル原因特定のためのコミュニケーション、業務改善活動などが行えるようになります。
このようにProceed Cloudで現場の写真データを余すことなく活用することで、リモート環境から委託先の品質/進捗管理を実現できます。また、プロジェクトが終了した後であっても過去の情報に容易にアクセスでき、必要な情報を即座に検索できることも大きな利益をもたらします。
このような「現状把握」、「過去情報の検索」といったユースケースが評価され、最近では製造現場だけではなく、調達先管理ツールとして活用されることが増えてきており、さまざまな企業で効果を出しています。
