「生産工程の見える化」が解決する7つの課題とは!?

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工場のIoTやDXを検討する際に良く上がるテーマの1つに「生産工程の見える化」があります。全ての工場の生産工程を一元管理でき、全社的に取り組めば企業の抱える多くの課題を解決できますが、その分、導入にコストがかかったり、生産現場の工数が増えるという理由で反発があったりと比較的導入障壁の高いテーマであるとも言えます。

そこで本記事では「生産工程の見える化」を行うことによって企業が解決できる7つの課題について解説します。生産工程の見える化に興味はあっても、時間とコストをかけてまで導入する価値があるのか分からないという方に参考にしていただければ幸いです。

生産工程の見える化とは

「生産工程の見える化」には様々な意味がありますが、ここでは納期が数ヶ月以上かかる大型製品の工程に着目して考え、各工程の進捗が写真や文章で「どの部材がどこで、どのように加工され、どういう状態で保管されているのか」どこでも誰でも確認できる状態とします。言葉で表すとシンプルですが、圧力、温度、速度など製造に直接関わるデータは数値化して管理していても、「生産工程を見える化」を実現している生産現場は少ないのではないでしょうか?また、近年では生産工場を海外に移管している企業も多く「生産工程の見える化」はリモートで製品の品質を維持するうえでも今後の製造業にとって非常に重要なテーマになります。

生産工程の見える化が解決する7つの課題

「生産工程の見える化」は直接的に業務と関係する生産管理部門以外にも企業の抱える多くの課題を解決できる可能性があります。ここでは生産工程の見える化によって解決できる多くの企業が抱える7つの課題について紹介します。

技能伝承の容易化

まず、最も大きなテーマは技能伝承の容易化です。重工業や船舶など大型製品の生産現場では部品の組付けや溶接などを手作業で行う工程が多く、高品質の製品を製造するためには熟練技能者の高度な技能が必須です。これらの技術はマニュアル化も難しく、現状は主にベテランの技を見て覚えるというのが技能伝承を行い際の主流とされています。ただ、昨今では製造業の人手不足もあり、このような非効率な方法では製品品質の維持が難しく、また、技能伝承が行われないまま熟練技能者の定年退職により長年蓄積してきた技能が失われる可能性があるという企業が増えています。それぞれの工程を細かく文書化し、教育ツールを充実させることである程度は解消されますが、日々の生産工程の中、そのような時間が十分に取れないというのが実情です。生産工程の見える化はこれら技能伝承を効率的に進めるのに非常に役立ちます。例えば各工程の完成状態を写真などで見える化し、製造の際の注意点などをデータとして蓄積すれば、そのまま技能伝承の教育ツールとして活用することが出来ます。特に多品種少量生産で、受注状況によって製品ごとの経験に偏りができてしまうような業種ほど、熟練者の経験を資産として残すことが重要になります。

設計業務の効率化

生産工程の見える化は一見、無関係に思える設計部門の業務効率化にもつながります。例えば、大型ボイラのような多数の部材によって構成された製品を設計する場合、設計者は全ての図面を新規で作成するわけではなく、設計条件に合わせて実績のある図面からどこを変更するかをベースに検討を進める場合がほとんどです。この場合、過去の実績をもとに多数の図面に変更点を書き加え、関係部門と調整を図りますが、平面図のみでは限界があり、意思疎通が上手く行かず図面と納入品が違うというトラブルが多々あります。設計者はこのようなトラブルを避けるために、都度サーバー上の大量な写真から対象の部材を探し、情報共有資料を作成するのに多くの時間を費やしています。生産工程の見える化により、過去実績の部材写真などが一括で管理されていれば、これらの資料作りにかかる時間を大幅に短縮でき、業務が効率化出来ます。また、近年では人手不足を補うために中途社員を採用するケースも多く、実物を見たことのない設計者が図面のみで検討するという場面も多く出てきます。このような場合にも、部材の写真が整理されていれば、実物と図面を比較しながら設計できるため、設計ミスのリスクを大幅に低減出来ます。

教育時間の短縮

生産工程の見える化は技能伝承だけでなく営業部門や設計部門の教育にも使えます。新入社員が配属されると、教育担当者は製品の構成や各部材の役割を教育する必要がありますが、教育ツールが十分にない場合、1から教育資料を作る必要があり非常に非効率です。生産工程の見える化により各部材の写真や製造者の注意項目、現在の製作状況などが見られれば、製品の工程や形状などが深く分かる優秀な教育資料となり、教育担当者の資料作成時間を大幅に短縮することが出来ます。また、新入社員の場合、製造実習などで実物を見ていても実務を行う際には忘れるという場合が多く、分からない時に自分で調べられる環境があるかないかは教育コストに大きく影響を与えます。

製品品質、信頼性の向上

国内外問わず、同じ製品を多数の工場で製造する場合、各工場の従業員による検査のみでは工場ごとに品質が変わるなどのリスクが発生します。生産工程の見える化を行い各工場の完成品の状態を一元管理出来れば、このような工場ごとの品質のバラつきを最小限に抑えることが出来ます。また、それぞれの完成品を工場ごとに比較することで、正常、不良の判断基準の統一や工場ごと課題、改善点などが見えてくるので次の一手を打ちやすくなるというのも生産工程の見える化の特徴の1つです。

営業前線との情報共有

多数の製品を同時並行で生産する場合、必ず発生するのが納期調整です。仮に納期遅れの場合、要因がサプライヤーであれ、自社であれ営業担当は「なぜ納期遅れが発生したのか」正当な理由を顧客に説明する必要があります。この時、生産側から納期遅れの要因を言葉や文書で営業に伝えても専門用語が多く、意図が上手く伝わりにくいため、結果として顧客に誤った情報が伝わる場合あります。生産工程の見える化により営業担当と生産現場が共通のプラットフォームを用いながら会話が出来ればこのようなミスコミュニケーションを防止することが出来ます。

工程管理業務の効率化

多品種少量生産で多数の製品の工程管理を行う場合、IT技術の導入が遅れた現場では作業者の日報や紙の帳票などで管理する場合がほとんどです。この場合、生産管理部門は紙の報告書の内容を工程に反映させたり、文書では分からない実物の状態を現場に確認に行ったりと非効率な作業が発生してしまいます。生産工程の見える化により製造現場と生産管理部門が共通のプラットフォームを活用すればこのような無駄な作業を削減でき、工程管理業務を効率化することが出来ます。また、現場が海外にある場合は、不要な出張も減らすことができ、経費削減にもつながります。

AI技術導入の容易化

製造業の現場では検査工程の自動化を行うためにAIによる画像認識技術を導入するという事例が多くあります。このような画像認識技術を導入するためには正常と不良を判断するための多数の写真が必要ですが、これらの写真データを整理できていない場合、データ集めの段階で長い時間がかかります。特に受注生産で多品種少量生産の場合は受注状況によって生産できる品種も変わるため、写真データの蓄積は急な対応では難しいと言えます。生産工程の見える化により日々の生産工程の写真を保存していればAIの画像認識技術の導入を比較的スムーズに行うことが出来るため、検査工程を自動化しやすくなります。

「生産工程を見える化」する際の注意点

生産工程の見える化は企業にとって多くの課題を解決する重要なテーマですが、便利な反面、注意点もあります。それは、コストや時間をかけて導入しても十分に活用されなければ導入効果が得られないということです。見える化に関するテーマではよくあることですが、単に現状を見えるようにしただけでは業務効率化は出来ません。導入前に「何のために」見える化を行うのか、その目的を十分に検討し、導入後も結果どうだったのかを記録し、次の改善に役立てることが重要です。また、実際に導入する際には、いきなり全てを見える化させるのではなく、万一の場合に備え、機密性の低い製品の工程からコストミニマムでスタートさせ、上手く活用できるようであれば横展開させていくというアプローチを行うのが一般的です

まとめ

生産工程の見える化が解決できる課題は次の7つです。

  1. 技能伝承の容易化
  2. 設計業務の効率化
  3. 教育時間の短縮
  4. 製品品質、信頼性の向上
  5. 営業前線との情報共有
  6. 工程管理業務の効率化
  7. AI技術導入の容易化

生産工程の見える化は全社的に取り組むべきテーマでコストもかかりますが、生産管理部門や品質管理部門だけでなく様々な部門の課題を解決できる非常に重要なテーマです。もし、自社で導入した際にメリットが大きいと感じる方は、是非、生産工程の見える化に挑戦してみてはいかがでしょうか?

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