セル生産方式とは?セル生産方式の基本やメリット、デメリット、将来性についてのまとめ

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工場で製品を生産する際に用いる生産方式の一つとして、代表的なものにセル生産方式があります。日本でも非常に多く用いられている方式ですが、セル生産方式にはその特徴ゆえのいくつかの課題があります。

本記事ではセル生産方式とは何か、そのメリット、デメリットや今後の課題について解説したいと思います。

セル生産方式とは

セル生産方式とは、作業者が少人数のユニットとなり製品の組立てから完成までを行う生産方式です。正式名称は「ワークセル生産方式」といい日本では1990年頃から多くの工場で導入されるようになりました。造船や電車、ボイラといった大型の機器から自動車部品、PC等の家電、工業用のバルブや時計など小型の製品を作る工場で幅広く用いられています。各工程に作業員を配置し、コンベヤなどに乗せた製品に部品を組付けていく「ライン生産方式」と合わせて比較される代表的な生産方式の一つです。

実際にセル生産方式でPCの生産を行っているNEC米沢工場の動画が上がっているのでご紹介します。生産ラインの紹介は1:36から始まります。

セル生産方式のメリット

セル生産方式のメリットは主に次の3つです。

少人数で多品種少量生産が出来る

セル生産方式では各セル自体が独立しているためラインを停止させずに品種を変更できます。このため、品種の変更を行う度に治具の組替え作業などが発生するライン生産方式に比べ多品種少量生産を行うことが出来ます。また、単純化された工程毎に作業員を各所に配置するライン生産方式に比べ、作業者一人当たりの工程が多くなるため、比較的少人数で生産することが出来ます。頻繁にモデルチェンジが行われるPC等の小型家電製品などはこのような理由でセル生産方式が用いられています。

生産変動への適応力が高い

セル生産方式の場合は、生産量に合わせてセルごとの稼働率を調整できるので、生産量が変動しても他の製品に影響を与えずに調整することが出来ます。このような理由から常に一定の需要が見込まれるものではなく、世の中の流れによって生産量の将来予測が立てにくい製品の場合はセル生産方式が適していると言えます。このような理由から、需給環境が不安定な製品にはセル生産方式が用いられています。

導入コストが安い

ライン生産方式で一つのラインを立ち上げるには大型のコンベヤや組付け、溶接等を自動で行う工作機械など、導入時に高額な設備が必要になります。これに比べ、セル生産方式は主に人の手で組立や溶接を行うので初期の導入コストを安く抑えることが出来ます。作業効率を上げるために、動作改善の工夫や工程の一部を自動化するなどは必要ですが、比較的コストが安く導入しやすいというのもセル生産方式の特徴です。

セル生産方式のデメリット

セル生産方式には多くのメリットがありますが、一方で次のようなデメリットもあります。

労働集約的で自動化しにくく品質の安定化が難しい

セル生産方式は生産する品種によって工程が変化するため、自動化がしにくいと言えます。また、特にボイラや電車の車体、造船など大型製品の場合、工程の多くは熟練技能者の経験と勘に支えられており、それらを数値化、言語化出来ないため機械に置き換えることが難しいとされています。これにより、一度ラインを立ち上げれば、一定の品質で連続的に製品を生産できるライン生産方式に比べ、作業者の経験不足による品質不良などが発生しやすいと言えます。また、近年では人件費削減のため生産そのものを海外工場に移管している企業も多く、遠隔で品質管理を行う必要があるため、品質の安定化の難易度は更に増しています。

作業者の教育に時間がかかる

セル生産方式では作業者一人当たりの負担が大きく、多くの工程を一人で完結させる多能工化が求められるため、作業者の教育に非常に時間がかかります。また、教育内容に関しても作業者の感覚や経験に頼る部分が大きく、マニュアル化が難しいため熟練技能者の作業を見ながら覚えるOJT(On the job training)が主になっています。このような理由から技能者の世界では「10年で1人前」と呼ばれています。

工程管理が複雑

セル生産方式の中でも特に大型設備を製造する場合は、ライン生産方式と比べ進捗が見えにくく工程管理が複雑です。また、自動化、マニュアル化しにくいという理由も合わせて大手企業でもITツールの導入が遅れており、工程の進捗は手書きの帳票などで管理されている場合がほとんどです。このような理由から納期通りに出荷を行うために生産管理部門が定期的に現場に足を運び工場の進捗を確認する必要があります。

セル生産方式の課題

これらを踏まえてセル生産方式の課題としては次の2点があげられます。

人材の確保

セル生産方式では前述のように一人の作業者が十分な技能を身に着けるまでに時間がかかるので、如何に育てた人材の流出を防ぎ人材を確保するかが課題の一つとして挙げられます。近年では、企業の業績変動合わせて人員を調整しやすいように非正規雇用を増やしている現場も多いですが、そのような人材流動性の高い現場ではセル生産方式は不向きと言えます。そのため、セル生産方式を導入している企業では自社内にて技能熟練者に対する褒章制度や一定の技能を保有する作業者に与える社内資格の認定制度などを導入しながら技能者のモチベーション向上や離職率の低下につなげている企業も多いです。人材確保はセル生産方式で高い品質を維持するのに必須の課題と言えます。

技能伝承

人材の確保と同時に課題となってくるのが「技能伝承」です。セル生産方式が多く導入された1990年代から比較すると熟練技能者が高齢化しており、若手への技能伝承が課題となっています。但し、前述のようにマニュアル化が難しいというのもあり、効率の良い技能伝承はセル生産方式を導入する企業にとって永遠のテーマとなっています。

優秀な人材を確保しながら、熟練者の技能が失われないように効率的に技能伝承を行うというのが、セル生産方式を導入する企業の共通の課題と言えます。

今後のセル生産方式について

これらの課題を踏まえ、今後セル生産方式を導入している企業では次のような流れを加速させていく必要があります。

技能の見える化

まず、テーマの一つとして挙げられるのが現状、熟練者の経験と勘に頼っている工程の見える化です。細かく重要なポイントを整理し、文書にすることを始め、最近ではスマートグラスなどのウェアラブル端末を用いて熟練者の視線を動画にし、解析するという試みもされています。OJTは教育方法としては非常に有効ですが、教育者の時間が取られる、教育者の指導力に依存する、対象者が絞られるという観点から効率のよい指導方法とは言えません。このような理由から最新のツールや外部機関などを利用しながら技能の見える化を行い技能伝承の効率化を進めていく企業が増えていくと考えられます。

ウェアラブル端末についての紹介動画がYoutubeに上がっているのでこちらも紹介しておきます。初心者と熟練者の視線を見える化し、熟練者が何を見て判断を行っているのか誰にでも分かるようにするという試みです。

ITツールの活用

次にあげられるのがITツールの活用です。最近ではこれまでITの導入が遅れていた建設業や製造業でITツールを用いたサービスを展開するスタートアップ企業が増えています。現場の工程を写真や動画に残してクラウド上で見られるようにするものやAIを用いて映像から品質不良を判定するソフトなど、有料、無料含めて様々なものが展開されています。それらのツールを上手く活用して、コストを抑えながら自社の課題を解決できる可能性があります。

まとめ

  • セル生産方式は少人数のユニットで製品の組立てから完成までを行う生産方式。
  • 多品種少量生産向きで導入コストが安いが労働集約的で品質の安定化が難しい。
  • 課題としては人材の確保や技能伝承があげられる。
  • ITツールを活用すれば課題を解決できる可能性がある。

セル生産方式について解説しました。セル生産方式と一言で言ってもライン形態や運用方法によって更に細かく分類することもできるので、興味のある方は調べてみてはいかがでしょうか?

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