ダイナミックセル生産方式とは?

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工場で製品を生産する際に用いる生産方式には大きく分けてセル生産方式とライン生産方式の2種類があります。それぞれにメリットデメリットがありますが、近年ではIoTやICTを活用した新たな生産方式としてセル生産方式とライン生産方式を組み合わせたダイナミックセル生産方式が注目されています。

この記事ではダイナミックセル生産方式とは何か、その特徴や課題について解説します。今後、工場の自動化を進めていく上で欠かせない知識なので是非参考にしていただければ幸いです。

ダイナミックセル生産方式とは

ダイナミックセル生産方式とはセル生産方式とライン生産方式の優位性を組み合わせた生産方式で、ドイツ政府が産官学共同で国家プロジェクトとして主導しているインダストリー4.0(第四次産業革命)のテーマの1つとされています。各工程をセルに分け、組立てや加工を行う工作機械をクラウド上で接続することで、製品ごとのリアルタイムな工程の変更やラインの組換えを実現できます。インダストリー4.0ではこれを自社工場だけではなくサプライヤー含め複数の工場、製造ラインを組合せた生産システムとして構築することで、仕様の異なる製品の既存生産ラインでの製造を可能とし、多品種少量生産を得意とするセル生産方式に比べ生産効率を格段に向上させることを目標としています。

実際にダイナミックセル生産方式を導入している自動車工場を例にとると、車体にRFIDタグを取り付け、それを読み込ませるだけで必要な工程が工作機械のプログラムへ自動入力されるというシステムを実現しています。ドイツの企業が率先して進めていますが、日本においても自動車産業をはじめとして多くの大手企業が導入を検討しています。

ダイナミックセル生産方式の特徴

ダイナミックセル生産方式はセル生産方式とライン生産方式を組合せた方式ですが、それぞれの生産方式との違いは次のようになります。

セル生産方式との違い

セル生産方式は各工程を少人数のユニットに分け1つのセルで多くの作業を実施するため、多品種少量生産を得意とします。但し、同じ仕様のものを作る場合にもライン生産方式のように流れ作業で完結させることが出来ず大量生産には不向きです。ダイナミックセル生産方式の場合、各工程をユニットとして考えるやり方はセル生産方式と同様ですが、各ユニットがクラウド上で接続された生産システムで全体管理し、ユニットごとの工程を自動で変更することでライン生産方式と同様の生産効率を実現できます。セル生産方式についてはこちらの記事で詳しく解説しているので合わせてご覧ください。

>>セル生産方式とは?セル生産方式の基本やメリット、デメリット、将来性についてのまとめ

ライン生産方式との違い

ライン生産方式は製品をコンベヤに乗せて流しながら決められた工程を経由して1つの製品を組み立てる生産方式で大量生産を得意とします。ただ、製品の仕様を変更する場合には機器や人員の配置変更が必要になり多品種少量生産には不向きです。ダイナミックセル生産方式では各工程はラインでつながれていますが、セル生産方式のようにユニットごとに独立しており、細かな仕様変更にも自動で対応できるため、ライン生産方式と同様の流れで多品種生産を実現できます。

ダイナミックセル生産方式のメリット

ダイナミックセル生産方式は非常に壮大なテーマですが、これを実現できれば次のような大きなメリットが得られます。

仕様変更が容易で稼働率も高められる

ダイナミックセル生産方式のシステムでは各工程がセルに分かれているため、製造途中の製品であっても仕様変更が可能になります。特にオプションが多くカスタマイズ性の高い製品の場合、受注後の仕様変更に容易に対応できるのは競争力の観点から非常に大きなメリットになります。また、仕様変更の際の段取り替えにかかる時間も低減でき工場全体の稼働率を向上させることが出来ます。これにより、一品一様で高付加価値の製品を効率よく生産できるようになります。

AI技術との親和性が高い

ダイナミックセル生産方式では膨大なデータを蓄積できるため需要予測等のAI技術との親和性が非常に高いです。AI技術を導入出来れば、作業工程の自動化だけでなく設備の稼働予測、故障予測、異常検知など新たなビジネスモデルの創出にも役立ちます。製造業でのAI技術と言えば、画像認識による検査工程の自動化などが代表的ですが、それ以外にもデータサンプルの取りやすい製造業ではAI技術の活用事例はますます増えていくと予想されます。

>>製造業におけるAI画像認識とは?AI画像認識サービスまとめ

少人化、省力化できる

ダイナミックセル生産方式は生産工程だけでなく、生産管理システムも自動化するため単に作業を自動化する従来のやり方よりも更に省力化を図ることが出来ます。設備投資は莫大ですが、人件費も大幅に減らすことができ、メリットも非常に大きくなります。特に人手不足が問題となる現代において、作業者の負担が大きく技能伝承が難しいセル生産方式の工場を自動化することは、これからの製造業において必須のテーマと言えます。

ダイナミックセル生産方式の課題

ダイナミックセル生産方式は実現できれば理想的な生産システムですが、一方で課題もあります。

 導入コスト、ランニングコストが大きい

ダイナミックセル生産方式を実現するためには最新の工作機械を導入し、かつそれらを一元管理する生産管理システムが必要となるため導入コスト、ランニングコストは非常に大きくなります。また、それらのシステムを構築するための専門人材の確保や教育にも時間がかかります。このような理由から現状では、自動車産業など市場規模の大きい業界で導入が進められています。ダイナミックセル生産方式は1企業で取り組むのではなく業界全体が一体となって進めていくべきテーマと言えます。

重工業では導入が難しい

ダイナミックセル生産方式は自動車など品種が多くかつ大量に生産される製品には非常に適したシステムですが、造船、電車の車体、ボイラといった大型製品の場合は設備投資に対し生産数が少ないため導入が難しいと言えます。大型製品の場合は手作業による工程が多いため、生産性を上げるには工作機械導入による自動化以外にも生産工程の見える化など別のアプローチが必要になります。重工業における生産工程の見える化についてはこちらの記事に記載していますので合わせてご覧ください。

>>「生産工程の見える化」が解決する7つの課題とは!?

 工場全体の最適化が必要

ダイナミックセル生産方式のメリットを得るためには1工程だけを自動化してもあまり意味はなく、工場全体の機器を接続し、最適化を図る必要があります。そのため、導入にはコストのみならず全社的なアプローチが必要です。また、工場全体を最適化するには各工程の標準化が必要になり、現場ごとのノウハウで支えられている場合は、それらを統一化させるところから始める必要があります。

まとめ

  • ダイナミックセル生産方式は従来の生産方式の優位性を融合させた生産方式。
  • 多品種を効率的に生産することが出来る。
  • 仕様変更が容易でAI技術との親和性が高い。
  • 導入コスト、ランニングコストが大きく重工業では導入が難しい。
  • 導入には工場全体の最適化をテーマに取り組む必要がある。

ダイナミックセル生産方式について解説しました。ダイナミックセル生産方式はインダストリー4.0(第四次産業革命)と言われるほど産業界に与える影響が大きいテーマで各国が自社製品をフォーマットに出来るよう競争しています。また、概念だけで具体的な事例は少ないので、今後どのような工場が現れてくるのか情報を収集し自社の工場に生かしていくことが重要です。

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