サプライチェーンの見える化が今後の製造業のカギを握る|グローバリゼーションの鈍化が招くサプライチェーン再考

サプライチェーン 特集

製造業に携わっていると、サプライチェーンマネジメント(SCM)という言葉を聞く場面があると思います。サプライチェーンとは、原材料を調達するところから製品の製造、そして製品がお客様の手元に届くまでの生産フロー全体のことを指します。その生産フロー全体を管理することをサプライチェーンマネジメントと呼ぶのです。

サプライチェーンを適切に管理することが重要なのは言うまでもありませんが、近年世界中に張り巡らされたサプライチェーンを再考する流れが生まれています。アメリカが反グローバリゼーションを唱えたことや、コロナ禍を経験したことで、今後それはより強いムーブメントになる可能性があります。

本記事では、サプライチェーンが全世界に張り巡らされた背景について触れ、昨今の情勢を鑑みた時にそれが再考されるのではないかという可能性について言及していきます。

日本経済の成長と大規模サプライチェーンが構築された背景

日本の高度経済成長期(1950年代〜1970年代)は大量生産・大量消費の時代でした。その影響もあって、日本のものづくり力は飛躍的に成長を遂げ、世界一のものづくり大国として知られるようになりました。日本製品は世界中で飛ぶように売れ、日本メーカーはモノを作れば作るほど売れるという好循環の中で会社規模を大きくしていきました。また先進国はグローバリゼーションを高々に宣言し、推進したため、日本を含めた世界中の有名メーカーは、ありとあらゆる国に生産・販売拠点を設置しました。その結果、部品サプライヤーも含め世界中にまたがる大規模サプライチェーンが構築されていったのです。

グローバリゼーションの鈍化が招くサプライチェーン再考

加速度的に広がったグローバリゼーションの後押しを受け、世界中で大規模なサプライチェーンが構築されていった中で、その牙城を崩す一石が投じられました。当時のアメリカのトランプ大統領が「反グローバリゼーション」を掲げたのです。これにはあらゆる狙いがあったのですが、世界中に散らばったアメリカ系企業の工場を国内に呼び戻し、国内雇用を創出することが目的のひとつでした。

一方イギリスはEUを離脱する、いわゆるブレグジットを宣言し、実行しました。これは、ヨーロッパ最大組織であるEUから抜けて主権を取り戻すことで、イギリス自身が手綱を握って経済成長を目指していくことが目的のひとつでした。

反グローバリゼーションやブレグジットに共通することは、グローバリゼーションで「外へ外へ」だった意識を「内へ内へ」と国内に向けたことです。国の方針は必ず国内企業に影響を与えます。これまで国外展開・拡大を中心に考えていた企業戦略も、国内に立ち戻って最適化しようとする流れになっていくことが予想されます。すると、世界中に張り巡らされたサプライチェーンを国内に集約させるように動くと考えるのが自然です。つまり、必然的にこれまでのサプライチェーンを考え直さなければならない事態に陥るのです。

サプライチェーン再考の流れは世界中で加速する可能性がある

前述したようなサプライチェーン再考の流れは、今後世界中で加速する可能性があると考えています。アメリカやイギリスといった先進国の方針であることに加え、時勢がそうさせるのです。以下に、今後サプライチェーンの再考を促すであろうと考えられる要因を挙げます。

【サプライチェーン再考を促す要因】
1. コロナ禍で、主要サプライヤーと市場との近さが重要だと気づいた
2. 大規模なサプライチェーンの隅々まで管理できない
3. 環境問題への取り組みがさらに重要視される
4. 少量多品種生産が主流となる

コロナ禍で、主要サプライヤーと市場との近さが重要だと気づいた

2020年、全世界で蔓延した新型コロナウイルスは私たちの生活に多大な影響を与えました。サプライチェーンも例外ではありません。あらゆる国や地域で発令されたロックダウンによって、工場では製品を生産することができなくなりました。そもそも部品が手に入らない事態も数多く発生しました。例え製品を作れたとしても、完成品の物流が停止してしまい、お客様に届けられない企業も多く存在しました。つまり、全世界に張り巡らされたサプライチェーンは全く機能しなくなったのです。このように、全世界にまたがってサプライチェーンが構築されている場合、どこかひとつが機能しなくなると他が正常であっても企業活動が続けられなくなることがわかったのです。そして、このような事態を避けるためには、主要なサプライヤーと市場は自社の近くにあることが重要だと気づいたのです。サプライチェーンがコンパクトであれば、それだけ世界情勢の影響を受ける可能性は低くなります。コロナ禍で受けた深い爪痕は、今後の企業活動の方針を変えるに足る十分なインパクトがあったと考えています。

大規模なサプライチェーンの隅々まで管理できない

近年、世界中にSDGsの考え方が広がっています。私たちが目にするニュースでも、児童強制労働や奴隷制に関与したとされる企業不祥事が報道されるようになりました。このような不祥事が報道されると企業イメージは一気に低下し、不買運動などに繋がり業績に深刻なダメージを与えます。

現在の日本において、強制労働や奴隷制が実行される可能性は限りなく低いでしょう。このような問題は発展途上国・地域などで起こることが多いのが現状です。

このような背景の中、最終製品を扱っている完成品メーカーは、自社製品を構成する素材から部品、プログラムなど全てにおいてSDGs的に問題ないかを検証する責務を負うことになります。しかし例えば数百・数千にも及ぶ素材や部品のすべての出所まで遡って、全世界に張り巡らされたサプライチェーンを監査・管理することは現実的ではありません。信頼できる国・地域でのみサプライチェーンを構築することで企業活動のリスクを低減させる方向に進むのではないでしょうか。

環境問題への取り組みがさらに重要視される

ESG投資が世界中で注目を集める今、環境問題へ取り組まない企業は融資を受けられない未来が待っているかもしれません。そのような事態を避けるため、各企業は環境問題に取り組んでいることをアピールする必要がありますが、環境問題対策への貢献度がわかりやすい指標のひとつに「CO2削減」が挙げられます。

企業活動を支えるサプライチェーンですが、その規模が世界中に及ぶ場合、素材や部品、完成品は全世界を移動します。モノを運ぶためには、車や船、飛行機が必要です。それが世界中を飛び回るとなれば大量の燃料を消費し、代償として大量のCO2が放出されることになります。つまり、サプライチェーンが大きければ大きいほど大量のCO2が生み出されるのです。CO2を削減したい企業は、サプライチェーンを見直すことが目標達成の近道になるのです。

少量多品種生産が主流となる

現代は多様性が広まり、趣味趣向もさまざまです。従来のように、みんなが同じものを持ちたがる時代は終わり、個人個人がオリジナリティを求めるようになってきました。このような時代では、これまでの大量生産システムは不必要です。少量多品種生産へと移り変わっていくでしょう。

少ししか作らない製品の部品を世界中から集め、少数の完成品を全世界に流通させた場合、間接コストが製品の原価を大きく引き上げます。少量多品種が当たり前になる時代では、最終市場の周りにサプライチェーンを集結させることで完成品の原価が膨れ上がるのを防ぐのではないでしょうか。

サプライチェーン再考に重要なこと|サプライチェーンの見える化がカギを握る

今後、サプライチェーンの再考は全世界が直面する問題へとなっていくかもしれません。そうなった場合、日本もその解決に取り組まなければなりません。サプライチェーン再考に必要なカギ、それは「サプライチェーンの見える化」です。

サプライチェーンの見える化とは、原材料を調達するところから製品の製造、そして製品がお客様の手元に届くまでの生産フロー全体を、データを用いて把握・管理できるようにすることを意味します。サプライチェーンの見える化によって狭義には、不要在庫を削減できたり、物流コスト・販売機会ロスを削減できたりと、過不足のない生産活動を実現することにつながります。一方広義には、部品の調達から販売までをシミュレートすることで、あらゆる事態に陥った場合のサプライチェーンへの影響を調査することができ、生産システム全体の最適化を図ることにつながります。

見える化できていないサプライチェーンを再考しようとしても、一体どこから手をつけていけば良いのかわかりません。担当者の勘だけでサプライチェーンをいじると取り返しのつかない事態に陥りかねません。まずは、サプライチェーン上のあらゆるデータを可視化することで現状把握し、再考の足掛かりを作ることが重要なのです。

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