技能伝承の課題と6つのステップとは?

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昨今、製造業では人手不足の影響もあり「技能伝承」を重要な経営課題の1つとして上げている企業も多いです。しかし、技能伝承と言ってもどこから手を付けていいのか分からず、継続的に取り組めていないという企業も多いのではないでしょうか?

本記事では技能伝承を効率的に実施するにはどうすればいいのか、技能伝承が抱える課題や効率的に行うための6つのステップについて解説したいと思います。今後、技能伝承を仕組みとして定着させたいという方にとって少しでも参考になれば幸いです。

技能伝承とは

技能伝承とは、経験によって培われた熟練者の技能を後輩や新人に伝えていくことを言います。技能伝承を継続的に行うことで人が変わってもノウハウは受け継がれ、永続的に高品質な製品を生み出すことができます。技能伝承と技術伝承は同じように扱われることもありますが、技能と技術は次のように定義が異なります。

  • 技能:技に関する能力でそれを使って仕事などを行う行為
  • 技術:技を記録し、伝えるように何かに置き換えられたもの

技能は実際に体を動かして行うことで感覚的な領域が占める割合が大きく他者に伝えることが難しいとされていますが、技術は図面や文書など形として残るので頭で理解すれば他者に伝えやすいという違いがあります。言葉で表しにくい技能を如何にコンテンツ化し、技術資産として効率よく伝承していくかが技能伝承を行う上で重要なポイントとなります。

技能伝承の課題

技能伝承は多くの企業が経営課題として上げていますが課題も多く、現状は上手く行っていない企業も多いです。特に中小企業などで人手不足が慢性化している場合は、技能伝承が上手く行えず、熟練技能者の定年退職によって従来の品質が保てなくなるリスクが顕在化しています。技能伝承が上手く行われない理由は企業によって様々ですが、一般的に上げられる課題をまとめると次のようになります。

  • 教えるべき技能が明確になっていない
  • マニュアルがない、あっても活用されていない
  • 教えられる人がいない
  • 教えても若手がすぐ辞めてしまう
  • 業務負荷が上がり現場からの反発がある
  • 若手のモチベーションが低い
  • 実施しても一過性で終わってしまう

単にマニュアルなどのツールをそろえること以外にも技能伝承の仕組みそのものに関する課題もあります。また、技能伝承は時間とコストがかかる割に効果が見えにくく、力を入れて取り組んでも成果として評価につながらないという場合もあり、人事制度そのものを見直す必要があることもあります。このように技能伝承は一旦実施したとしても仕組みとして定着するまでに高い障壁があります。

技能伝承の6つのステップ

これらの課題を考慮すると、技能伝承を効率的に行うには単にマニュアルなどのツールを作成するだけではなく、その他にも検討すべきことが多くあることが分かります。ここからは技能伝承を効率的に行うための方法を6つのステップに分けて解説します。

現状の把握と目標設定

まず、最初のステップは現状の把握と目標設定です。誰がどんなスキルをどの程度身に着けているのかを把握し、伝承すべきものを明確にします。これらをリスト化し、現状を詳細に把握することで技能伝承を計画的に実施できるようになります。また、リスト化した技能が事業環境の変化の中で今後も必要とされるものなのかも検討し、技能の仕分けを行うことで、身に着けた技能が活用されないという事態を防ぎます。

次に継承すべき技能をどの程度の期間でどのように習得するのかという目標設定を行います。設定した目標は実施しながら定期的に見直し、実態と合うように修正しながら進めていくことが重要です。

キャリアの明確化

2つ目のステップはキャリアの明確化です。これは技能伝承により数年後にどういうスキルが身につくのか、その結果、どのようなキャリアが歩めるのか、技能伝承を受ける側のキャリアを明確にすることです。伝承を受ける側として技能伝承に取り組むことで自身の歩むキャリアがイメージできなければモチベーションは低下します。継続的に技能伝承を行うために、受け手本人の望むキャリア、そしてそれを実現するにはどういう技能が必要なのかを明確にすることでモチベーションを高めることが出来ます。

また、技能伝承を行う側にも、技能伝承を行うことでどのようなキャリアアップにつながるのかを認識してもらうことも重要です。そのためには技能伝承を行う側にも成果が出れば評価に反映するなどといった対策も有効です。

技能の標準化

3つ目のステップは伝承していくべき技能の標準化です。技能の標準化とは「正しいやり方はどれか」を明確にすることです。仮に技能伝承を行ったとしても「正しいやり方」が定義されていなければ教える人によって言うことが違うという事態が発生し再現性が無くなります。これを防止するためにどれが一番いいやり方なのか、熟練者側で検討する必要があります。標準化を行うには各々の熟練者がどのようなやり方で実施しているのかを整理し、それぞれの良い点を抽出することで「正しいやり方」を定義する必要があります。技能の標準化はひとつひとつを定義するまでに非常に時間がかかりますが、これが明確になっていないと、その後の作業が全て無駄になるので最も真剣に取り組むべき重要なステップと言えます。

マニュアルの作成

4つ目のステップは標準化した技能をマニュアル化することです。標準化を行い「正しいやり方」が定義されれば、それらを文書化することで教科書が出来ます。技能伝承では、熟練者が経験的に行っている暗黙知の領域が多いですが、本人へのヒアリングや動画、写真、ウェアラブル端末などのITツールを活用し、誰が見ても分かるように形式知化します。マニュアルの作成は非常に手間のかかる作業ですが、1度行えば何度でも使いまわせるので長期的に考えると必ず取り組んでおくべき業務と言えます。また、マニュアルの作成を効率的に進めるためには、日頃の業務の中でその工程の注意するポイントや自身が心掛けていることを記録しておくというのも非常に重要です。これについては生産工程の見える化に関する記事にも記載しているので合わせてご覧ください。

「生産工程の見える化」が解決する7つの課題とは!?

教え方を教える

5つ目のステップは教え方を教えるということです。伝承すべき技能が明確になれば、人に教えるとはどういうことなのか熟練者側に教育する必要があります。多くの熟練者はこれまで「技能は見て盗むもの」という教えの下で技能を身に着けている場合が多いです。そのため、いざ他人に教えるとなっても教え方が分からないという事態に陥ります。また、年齢が離れている場合は年代ごとに前提となる仕事への考え方が全く違うため、コミュニケーションの取り方も含め、相互理解を深める方法を知ることが重要です。

最近では技能伝承に関するニーズの高まりからOJTをテーマにした研修なども増えているので、それらのサービスを利用しながら、伝承の仕方に極力バラつきが出ないよう工夫が必要です。

育成計画の作成

6つ目のステップは育成計画の作成です。伝承すべきこと、目標、伝承の方法が決まったらそれらを総合的にまとめ、1人1人に合った育成計画を作成します。育成計画を立てることでその場しのぎではなく継続的に技能伝承に取り組むことが出来るようになります。また、育成計画を作成して終わりというわけではなく、定期的な目標設定の変更や、進捗の確認など随時ブラッシュアップしていくことが重要です。これにより「技能伝承を行う側」と「受ける側」のお互いが育成計画書を共通ツールとして活用することができ、確実な技能伝承につなげることが出来ます。

まとめ

技能伝承には課題も多いですが、次の6つのステップを順番に実施することで効率的に取り組むことが出来ます。

  1. 現状の把握と目標設定
  2. キャリアの明確化
  3. 技能の標準化
  4. マニュアル化
  5. 教え方を教える
  6. 育成計画の作成

現状の把握や目標設定、標準化、育成計画の作成など時間を掛けるべきところはしっかりと検討を行い、マニュアル作成などの作業はITツールなどを活用しながら効率的に進めることが重要です。また、技能伝承そのものを仕組みとするためにも一度行えば終わりというわけではなく、計画的に繰り返しながら活動を1つの業務として定着させるよう心掛けていきましょう。

マニュアル作成についてはこちらの記事も作成していますので合わせてご覧ください。

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