AIを活用した外観検査業務の効率化事例を徹底紹介

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製造業において、高い品質の製品を製造するために外観検査業務は重要です。しかしながら近年製造業は慢性的な人材不足や熟練技術が伝承できないといった課題が生じています。特に外観をチェックする業務は熟練者の技術や経験が必要です。

これらの課題を乗り越えるために、製造業のデジタル化やデジタルトランスフォーメーション(DX)を用いるようになりました。近年はAI(人工知能)技術による画像認識を活用し、外観検査業務を自動化する活動が盛んになっています。

この記事ではデジタル技術を用いた外観検査の効率化事例を紹介します。

外観検査とは

事例を紹介する前に、外観検査について簡単に説明します。外観検査とは、製品や部品の見た目に問題がないかをチェックするための検査です。製品の品質を担保するうえで重要な作業工程のひとつです。具体的には、製品の表面にキズや異物がないなどを確認します。かつては人間の目によるチェックによる「目視検査」が主流でしたが、近年はシステムを用いた自動化も進んでいます。

なぜ外観検査業務を自動化させるのか

外観検査を自動化する目的としては、以下の4つが挙げられます。

  • 人材不足の解消
  • コストの削減
  • 業務の効率化
  • ノウハウの蓄積

それぞれの項目について詳しく解説します。

人材不足の解消

経済産業省が2020年に公開した「ものづくり白書」によると、国内の製造業の就業者数は年々減少しており、2002年の1,202万人から2019年には1,063万人とこの20年間で11.6%減少しています。また、アンケート結果では直面している経営課題として「人材不足」と回答した中小企業が約42%と、多くの企業が人材不足に陥っていることがわかります。

人材不足の課題を解決するために、デジタル技術の利活用を推進する企業が増えており、主にAI(人工知能)を活用した外観検査が広まっています。AI活用により、これまで人の知識や勘に頼ってきた業務を自動化させる動きが活発になっています。

コストの削減

多くの製造業は「価格競争の激化」に直面しているだけでなく、新型コロナウイルス感染拡大に伴う原材料費や経費の増大などといったコストに対する課題が生じています。外観検査業務をデジタル化することで、検査工程に携わる人員を縮小し、コスト削減を図る企業が増えています。

業務の効率化

近年は働き方改革の推進が謳われていることから、既存の業務をいかに効率化し、生産性を高めるかが重要になっています。生産性向上を図ることにより、人手不足の解消だけでなく労働環境が改善され、社員のモチベーション向上にもつながります。

外観検査業務はこれまで人間の目視で行ってきましたが、何らかのトラブルが発生した場合には品質維持のために他の業務を担当していた社員を外観検査業務に人員が割かれ、会社全体としての生産性が減少することも発生してしまいます。

ノウハウの蓄積

製造業で未だにベテラン社員の長年の経験や勘に頼っている企業が存在します。しかし、そのベテラン社員もいずれは退職することになります。後継者を育成していればよいですが、多くの企業は人材不足に陥っており、後継者が存在しないケースもあるかと思います。

そのため、AI技術で検査業務を自動化することにより、これまでベテラン社員に依存していたものを、企業のノウハウとして蓄積することが可能になります。

さまざま外観検査のDX化の事例

外観検査のDX化でよく用いられるのはAIを用いた機械学習です。機械学習の中でも特にディープラーニング(深層学習)が活用されています。ディープラーニングとは、人間が手を加えなくてもコンピュータが自動的に大量のデータからそのデータの特徴を発見する技術のことです。具体的にはSNSのタグ付けなどで用いられる「画像認識」、スマートスピーカーで使われている「音声認識」、Googleの自動翻訳で使用されている「自然言語処理」、製造現場で活用される「ロボットによる異常検知」の分野でディープラーニングが活用されています。

ここでは主に「ロボットによる異常検知」に関連した、外観検査のDX化の事例を3つ紹介します。

事例1:外観検査の自動化・効率化|導入に向けた手順

NECでは外観検査を自動化するためのディープラーニングのソリューションを提供しています。具体的には「RAPID機械学習」と呼ばれるディープラーニングを用いた機械学習のサービスを提供しており、事例のひとつとして、自動車部品を製造している企業での自動車部品における外観検査の自動化を図りました。

この自動車部品製造企業では外観検査の自動化実現に向け、以下の2つの課題が生じていました。

  • 画像処理ではルール化が難しい不良の検知が必要
  • 日々の運用の中で発生した新たな不良にも対応が必要でルールの都度設定が困難

これらの課題を解決する手段として、

  • 画像処理での判定が難しい場合にAIに判断してもらう運用とした
  • 新たな不良パターンをAIがフィードバックする仕組みを構築し日々の判定精度を向上させた

といった取り組みを行ったことで、外観検査の自動化を実現することができました。

事例2:熟練技術が必要な磁気探傷検査の自動化

自動車製造大手のトヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)はシステム開発会社のシーイーシーのDeep Learningを活用した外観検査・画像検査システム WiseImagingを導入しています。

トヨタでは外観目視検査と磁気探傷検査を実施しました。外観目視検査は製品に悪影響をおよぼすキズ、欠肉、アバタと呼ばれる欠陥を人の目で判断する検査工程です。磁気探傷検査は、外観目視検査では検出できないキズを検査します。

WiseImagingには判定根拠となる特徴の違いを色の強弱で可視化するヒートマップという機能が搭載されており、精度が高いことが特長です。

いきなり正式導入するのではなく、まずはトライアルで試しながら検証していましたが、初期の段階ではなかなか分析精度は上がらなかったようです。しかしながら、担当のエンジニアがプログラムを調整することにより精度が向上し、本稼働につなげることができました。

導入効果としては、これまで見逃し率が32%あったのが0%、過検出率も35%から8%に減少しました。また、検査要員も4名から2名に減らすことに成功し、コスト削減と業務効率向上につなげることができました。

事例3:従業員18名の町工場でのAI活用

株式会社ヨシズミプレスは金型の設計・製作やプレス加工を行う従業員18名の町工場です。そのような規模の企業でもAIを活用した外観検査が進められています。

同社ではAIを用いた外観検査のシステムを導入しており、システムの導入費用は約30万円と安価でした。導入期間は約70日。同社にはプログラミングができる人材はおらず、事前に用意したデータもなかったそうです。

導入効果については、システム導入前は月当たり50万個の製品を目視検査、検査員6名で約10日間かかっていた作業が、システム導入後は検査に要する総時間が約40%削減し、検査員が目視で検査する製品数も95%削減することができています。これは、目視検査の対象部品が月当たり50万個から2万個に減らせたということです。

作業効率向上だけでなく、企業の利益増加や今まで長時間神経を使っていた検査業務を省力化できたことによりストレスが軽減され、従業員の満足度も向上しました。

会社の規模に関わらず検査業務のDX化は可能

会社の規模に問わず外観検査業務のDX化は可能だということはおわかりいただけたのではないでしょうか。どの事例も共通していえるのは、「まずはやってみる」という形で検証を初めています。

今では安価で始められるソリューションが多く存在し、AIは身近な存在となりつつあります。現在、容易に解決できない経営課題を抱えている企業は、AIの活用を検討してみてください。

本記事が、皆さんの課題解決の一助となれば幸いです

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